本書『図解でわかる! 理工系のためのよい文章の書き方』のような、日本語文章の書き方を教える書籍はすでに何冊も何冊も出版されています。このブログではそうした先行する書籍の中から良書を紹介していこうと思います。
まず、なんといってもこの2冊から始めない訳にはいかないのが、木下是雄『理科系の作文技術』と、本多勝一『日本語の作文技術』です。
『理科系の作文技術』の方は、1981年に出版されて以来、今日に至るまで刷り続けられているロングセラーで、日本の理工系学生の多くは、一度は同書を薦められたことがあると思います。著者(福地)も高校生の頃に薦められて読んで以来、ずっと参考にし続けた本です。同書の主張である、重要なことを先に書け、説明の順序は概観から細部へ、明言を避けるな、といった教えは今でも胸に刻まれています。
同書は理工系向けの、論理的で明瞭な文章の書き方を指南するものではありますが、その序章は「1940年、潰滅の危機に瀕した英国の宰相の座についたウィンストン・チャーチルは、政府各部局の長に次のようなメモを送った。」から始まる、意外性のある巧みな文章で、単に文章の書き方をマニュアルのように教えるのではない、読んでなお楽しいものとなっています。
著者の木下是雄は日本の物理学者の集まりである「ロゲルギスト」同人の一員として、一般読者を対象とした、物理現象にまつわるエッセイを書き綴っていた経験があるためか、こうしたうるおいのある文章を得意としていたようです。(それらエッセイは「物理の散歩道」「新物理の散歩道」というシリーズにまとめられています。ご参考までに)
もう一冊の、『日本語の作文技術』は、ジャーナリストの本多勝一が1982年に著したものです。朝日新聞の記者として経験を積んだ本多の説く作文技術は、理工系のみならず文章全般に適用できる重要なものです。修飾語の順序、句読点の打ち方、助詞の使い方などの説明は、本書にも大きく影響を与えています。本書ではこれらの内容は駆け足で説明してしまっている部分もあるので、余裕があればぜひ『日本語の作文技術』もあわせて読むことを推奨します。
さて、これら偉大な先達がありながらなぜ私達は新しく本を書くことにしたのでしょうか。
一つには、これらの書籍は、独習するにはいいのですが、指導のツールとしてはじゃっかん使いにくいという教員側の事情があります。学生が書いてきた文章の問題点を指摘した上で、その文章のどこがどうして問題なのか、それをどう直せばよいのか、を前掲書を使って指摘するのは意外に難しいのです。
私達の本はその点、文章初心者がおちいりやすいポイント毎にトピックを分け、その問題点と対策を、図解つきで説明するという構成になっています。なので、文章の問題点を見つけたら本書から該当個所を探し出しては「ここ読んどいて」と相手に渡して指導することができるのです。
もう一つ、前掲書の記述がいささか古くなってしまった、ということもあります。コンピュータとインターネットを活用して文章を書くのが当たり前になった今、原稿用紙の使い方や文献情報の書き方や校正記号の使い方は、前掲書が書かれた1980年代ならいざ知らず現代においては、特に初心者向けの書籍としては、もはや不要でしょう。
本書ではそうした点を踏まえ、内容のアップデートを図っています。