本書の一部トピックには演習問題がついています。下の問題は「3.12 修飾語と被修飾語の関係を改善する」のものです。試しに挑戦してみてください。
さて、残念ながら本書ではこうした演習問題は「一部の」トピックにしかついておりません。説明文と図解を充実させた結果、ページ数を抑えるためには演習問題を削らざるをえなかったというのがその理由です。
そのため、演習問題をたくさん解いて自分の理解を試しておきたい、トレーニングを積んでから実践に臨みたい、という方には本書はちょっと不向きです。また学生や部下を指導する立場の方にとっては、テストの参考となる演習問題があった方がいい、という要望もおありかと思います。
そこで本記事では、演習問題が充実した書籍を紹介します。本書とあわせて利用すれば、さらに着実に文章力を身につけることができるかもしれません。
『とりあえずの国語力』
まず紹介するのは、石原大作『とりあえずの国語力』(徳間書店, 2010)です。本当に基礎の基礎を教える本で、「誰が」「なにを」「どうした」をどのように書くと読みやすい文になるかを、穴埋め問題を解きながら学べるように書かれています。
書くだけでなく、文章を読み解く力を鍛えるための問題も用意されています。基礎からやり直したい方にお薦めです。
『日本語練習帳』
より総合的な文章力の訓練に挑みたい人にお薦めなのが、大野晋『日本語練習帳』(岩波書店, 1999)です。
助詞の「は」と「が」の違いや、「思う」と「考える」の違いといった、言葉の小さな違いを意識するための問題や、段落の組み立て方を中心とした文章の構造に関する演習問題が充実しています。
なかでも重要なのが、本書で「縮約」と呼ばれている演習です。
文章の「要約」といえば、長い文章の要点をまとめて文章化する作業です。一方、大野がいう「縮約」は、文章の内容をできる限り保存したまま長さを短くするという作業です。ちょうど、地図には縮尺があって、基本的な地形や道のつながり具合は保ちつつも大きさが異なるように、文章全体を縮めるのが「縮約」、というわけです。例えば800字で書かれた文を400字に縮約する、といったような演習問題が同書には掲載されています。
縮約は要約と異なり、文章の要点を抜き出すというよりかは、余計なものを剥ぎ取るのが主眼となります。といっても、よく書けている文章を相手に縮約をしようとしても、どの文言も重要そうに見えてきて、余計な箇所がないような気がしてきます。それをあえて選別していくので、自然と文章を厳しく読む目が鍛えられます。
文章を厳しい目で読む力は、「3-1 厳しい読み手になろう」でも説明したように、よい文章を書く上で大事な能力です。著者自身も高校生の頃に似た訓練を受けていますが、あらためて振り返るとあれがいまの自分の文章の血肉になっていると実感します。
『論文作成のための文章力向上プログラム』
大阪大学の村岡貴子らによる『論文作成のための文章力向上プログラム—アカデミック・ライティングの核心をつかむ』(大阪大学出版局, 2013)は、大学教育の場で実際に利用されている教材で、実践的な演習問題がたくさん用意されています。対象となる文章は、論文のみならず、手紙や報告書など様々な種類のものが取り上げられています。解答も解説つきでしっかりと書かれています。
『大学生のための日本語表現トレーニング ドリル編』
最後にご紹介するのは、安部朋世ら『大学生のための日本語表現トレーニングドリル編』(三省堂, 2010)およびそのシリーズです。大学における演習形式の講義で使用することを想定して設計された教材で、ペーパーテスト形式の演習問題が大量に収録されています。
演習問題は、適切な送り仮名を選んだり接続詞や助詞の使い分けを問うレベルから、パラグラフ・ライティングを実践するものまで、様々なレベルのものが用意されています。また対象とする文も手紙やEメールなどを含んでおり、実践的なものになっています。ただし長めの論文は対象には入っていません。
以上、4つの書籍をご紹介しました。自分の目的に合ったものを選んでみてください。