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辞書の有効活用法: 「知ってるつもり」の言葉も確認しておこう

本記事は連載記事「辞書の有効活用法」の第3回目です。

辞書は「知らない言葉」を調べるときに重宝するものですが、自分の文章力を高めるためには「知ってるつもり」の言葉を調べる習慣もつけておきましょう。

例を挙げましょう。学生のレポートを採点していると、「適用する」と書くべきところを「適応する」と誤って書いているのをよく見かけます。

これは学生に限った話ではなく、あちこちでよく見かけます。先日も iPhone のシステムメッセージでこの間違いを犯しているものを見つけました。

これらの言葉、字面も音の響きもよく似ているので混同するのでしょうが、一度でも辞書を引けば間違えずに済むはずです。

【適応】 1. その状況によくかなうこと。ふさわしいこと。あてはまること。
【適用】 (法律・規則などを)あてはめて用いること。
(広辞苑・第七版)

つまり、「適応する」は主語が指し示す対象がその周囲の状況にかなうように変化することを意味しますし、「適用する」は法律や規則などを目的語として必ず伴うもので、変化するのはそれらをあてはめる相手です。\

しかし、自分には「適応」「適用」がわかっているという自信、あるいは曖昧な理解のままで済ませようとする姿勢があると、辞書をわざわざ引いて確かめようとも思わず、間違った理解のままになってしまいます。相手により確実に意図を伝えるためには、言葉の意味をよく理解しておくことが肝心です。

さて、「知ってるつもり」の言葉を辞書で確かめることの利益は他にもあります。

辞書は「言葉を説明する言葉」の宝庫

利益の一つは、言葉を言葉で定義した文に触れる機会が増えることです。

学術論文や仕事の文書というものは、なにかを言葉で明確に説明することを目指したものです。自分ではわかっている(つもり)のことを言葉でどう表現するか、文章を書くときには常にこれを考えることになります。

とはいえこれが簡単なことではないのは皆さんも日々の経験からよくおわかりでしょう。

辞書の語釈はそんな、言葉で言葉を説明する努力の結晶です。知ってるつもりの言葉でも辞書でその語釈を引いてみると、自分では意識していなかった細かな違いに気づかされたり、またその違いを見事に言葉に表しているのに感心させられたりすることしきりです。それらに何度も目を通す内に、どんな違いに気を配って説明するとよいのか、その勘所が次第に飲み込めてきます。

あるいは、語釈を読むとなんだか誤魔化されたような気になる事も少なからずあります。そんなとき、自分はどこに違和感を覚えたのか、自分ならどう改良するかを考えてみるのも、よい訓練になります。

先程挙げた例で言えば、広辞苑の「適用」の語釈はあと一歩届いていないように思います。「あてはめて用いる」だと、対象へ能動的・積極的に働きかける語感があります。しかしながら、例えば「自転車の通行にも道路交通法の◯◯条が適用される」という使い方はそれとは少し異なります。「適用」のそうした語感をうまく説明しているのが、『新明解国語辞典』です。語釈を引用します。

〔その法律・規則などに〕あてはまるという扱いをすること。
(第七版)

このように、辞書によってそれぞれに説明が異なる場合があり、それぞれがその言葉の異なる側面に光を当てていることがあります。言葉をより詳しく調べたいときは、複数の辞書にあたることが大事です。一人で何冊もの辞書を用意しておくのは大変ですが、図書館に行けばたいてい複数の辞書が常備されていますので、有効に活用しましょう。