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「問題」と「結果」を明らかにしよう

卒業論文や修士論文の季節ですね。おおまかな全体像はそろそろ仕上がっている頃でしょうか。まだという人は、箇条書きでもよいので、論文全体の軸となる部分、すなわち骨格をまず作っておきましょう。

骨格ではその論文の主張、すなわち言いたいこと・伝えたいことを、余計な文言を省いて書き出していくことが大事です。骨格で言いたいことが不明確だと、それに基いて書いた論文も主張が不明確でダラダラと文字が並んだものになってしまいます。骨格がしっかりしていれば、文章がちょっとくらい下手でも読めるものになります。

主張が明確な論文骨格を作る上で大事なのが、「問題 (issue)」「手段(method)」「結果(result)」の三つです。本書では頭文字をとって「IMR」と呼んでいます。それぞれ、

  • I 問題…その論文で取り組んだ、解決しようとした問題
  • M 手段…その問題を解決するために実施したこと
  • R 結果…その手段を実行して得られた結果

を意味します。IMR の三つが明確になっていれば、他の情報、例えば背景や議論といった情報は IMR から派生させて書くことができます。逆に IMR が不明確な論文は、背景や議論も散漫なものになりがちで、著者が何をしてどんな結論を導き出したのか、最後までよくわからないものになってしまいます。

さて、それでは IMR を明確にするためにはどのようにすればよいのでしょうか。これにはおすすめの手段があります。本書の「2.7 本論は『IMR』」でも説明しているものですが、あらためて紹介します。

まず、雑でもいいので「問題」を書いてみましょう。研究や論文書きに慣れていない人はここで悩むことにはなるかと思いますが、まずはとにかく書いてみてください。どうせ後で直します。

そうしたら、次に「結果」を書きます。「手段」はこの後に書きます。

IMRのうち、まず「問題」と「結果」から書く

「結果」を書いてみたら、先ほど書いた「問題」と突き合わせてみましょう。その二つの整合がとれているか、確認してみてください。問題のサイズと結果のサイズはバランスがとれているか、その結果は問題にきちんと向き合っているか、よく見てみてください。他人に確認してもらうのもよいでしょう。

次に「問題」と「結果」が対応しているか確認

例を示しましょう。サイズのバランスがとれているか、というのは、例えば以下のように、結果に対して不釣り合いに大きな問題を書いていないか、ということです。

  • 問題: 世界中の海洋ごみをなくす
  • 結果: 海中ロボットのモーターの出力が改善されていることを確認した

これは本来、海洋ごみの実態調査のために自律航行できる海中ロボットを作っていて、その一部の部品の出力に不満があったのでそれを向上させたかった、というのが直接の動機です(なお、これはあくまでも例のために私がでっちあげたものなので、内容には特に意味はありません)。

このようにサイズのバランスがとれていない場合は、結果に合わせて問題のサイズを絞り込むことが大事です。上の例でいえば、

  • 問題: 海中ロボット用モーターの出力を改善する
  • 結果: 出力が改善されていることを確認した

と書けばよいのです。

結果が問題に向き合っているか、というのは、例えばこのような結果を書いていないか、ということです。

  • 問題: 海中ロボット用モーターの出力を改善する
  • 結果: コイルの巻き方に問題があることがわかった

おそらく実験がうまくいかなかったのでしょう。それについて正直に書いていることはとてもよいのですが、「モーターの出力を改善する」という狙いに対して、結果が向き合っていません。まっとうに書くと、

  • 結果: 出力の改善は確認できなかった

となります。設定した問題に対して、肯定的に解決したのか、否定的に解決したのか、それが明らかになるように結果は書かねばなりません。

なお、もしコイルの巻き方が問題であったことが確定しているのであれば、

  • 結果: 出力の改善は確認できなかった。その原因はコイルの巻き方であることがわかった

と踏み込んだ内容にしてもよいでしょう。ただ、もしそれが原因であると本当に確定しているのであれば、そこを修正して改善された出力を得ているはずですから、この原因は推察に過ぎない、というのがおそらくの実態でしょう(時間切れで終わった研究ではよくあることです)。そうであれば、失敗の原因については結果には含めず、考察や議論の章で書くべきです。

このように、問題と結果とを突き合わせた上で、釣り合いを見ては書き直す、ということを繰り返していけば、自分が本当に取り組んだことは何で、結果が何であったのかを、文章で明確に表現できるようになっていきます。

問題と結果が明確になってきたら、次に「手段」を書きます。このとき、その手段が、問題から結果を直接的に導くものになっているかを、よく点検しましょう。つい余計なことを書きがちなところですが、問題と結果のサイズに見合うように、絞り込んで書くことが大事です。上の例でいえば、

  • 問題: 海中ロボット用モーターの出力を改善する
  • 手段: モータ内部のコイルの巻き数を増やす
  • 結果: 出力が改善されていることを確認した / 出力の改善は確認できなかった

といったような書き方になります。

IMR が書きあがったら、あとはその問題や手段を説明する上で必要となる背景情報や、その結果から発展させた考察を書いていきます。こうした論文の全体象の書き方については、以下のページを参考にしてください。