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生成AIとの付き合い方

本日発売の『増補改訂版 理工系のためのよい文章の書き方』では、「生成AIの活用」と題した節で10ページほど、文章作成における生成AIの活用法および注意点を書いています。

本稿の執筆は5月頃だったため、発売までの期間を考えれば、その間に生成AIにできることがさらに増えるのは想定の範囲内でした。事実、OpenAI o1 の発表が9月12日にあり、生成AIによる文章執筆はさらに便利になったようです。

しかし本書での生成AIの使い方はとても保守的で、AIに書かせたい情報はほとんどぜんぶ人手で用意し、最後の整形や言い回しのチェックのみを生成AIにやらせる、というスタンスをとっています。

理由の一つは、そもそも本書は実験レポートの類を書く学生や、初めて論文を書くような方が参考とすることを想定したものだということです。実験や調査を経て得た事実を言語化するのは、いまだ人間の役目です。 AIにそれを代替させるには技術的障壁がまだまだありますし、言語化を自ら行うことがもたらす、観察力や思考力の訓練の恩恵は、教育者として軽視できません。授業でやるような実験であればすでに生成AIが学習済みで、実験をせずとも結果を創出するくらいのことはできるのでしょうが、将来、自分の独創で行った仕事について文章を書こうとして手が動かなくなるようでは問題です。

また、そもそも生成AIに文章を書かせるためには、相応の準備が必要です。書かせたい内容が何なのかを生成AIに指示する手段は、結局のところ文章です。 AIに与える文章の品質が低ければ、生成される文章の品質もなかなか高まりません。自分の頭の中にしかない情報を引っ張り出して文章にするためには、文章を書くしか手段がないのです

これらの理由にもとづき、増補改訂版でまっさきに着手したのは、「1.1 まずは短文の書き方から」から「1.7 メモをつけよう」までの、短文の書き方を指南する第1章でした。というのも、生成AIの活用のために一番必要なのは、短い文を迅速かつ適切に書く能力であると考えたからです。

事実と意見とを分けて書くこと(1.4)、事実をたくさん書き記すこと(1.5)。普段から短文でメモをモリモリと書く力(1.7)、また、考えたことをとにもかくにも言葉にして書き出す力(1.6)。これらを鍛えることが、回り道のようで結局は生成AIの活用にもっとも役に立つはずです。

また、生成AIの出力を吟味し、問題点があればそれを適切に指摘して修正させることも必要になります。本書では「3.1 厳しい読み手になろう」「3.2 『なぜ』の不足を解消する」」で、そうした力を育成する上で必要なことを説いています。

このような感じで、増補改訂版はこれからの時代にも生きる文章力の育成を目指した内容にしています。直接的な生成AIの活用法については、本書は保守的な手法しか載せていませんが、本書で学んだことは必ず役に立つことでしょう。