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論文とレポートの違い

本書の担当編集の方から、このブログで「論文とレポートとの違い」について書きませんか、という提案をいただきました。言われてみれば本書では、副題に「論文・レポートを自力で書けるようになる方法」と掲げていますが、論文の書き方については「4-4 理工系論文の書き方」や「4-5 論文概要は『起承転解結』」といった TOPIC では説明しているものの、レポートの書き方についてはあまり説明していませんでした。

ですので、本記事では「論文とレポートとの違い」を述べながら、あわせてレポートの書き方について補足説明をしようと思います。

とはいえ、「論文とレポートとの違い」を説明するのはなかなかの難事です。というのも、論文の書き方というのは分野によって様々ですし、またレポートの方も、それを課す教員や科目によってこれまた様々ですので、一概に「論文とレポートはこう違う」と明示するのは難しいのです。中にはレポートを論文形式で提出することを求める科目もあるでしょうし、反対に事例報告を主とする論文はレポートのようにも見えることがあります。

それでもあえて論文とレポートとの違いを述べるなら、それは 「問題」を誰が定めたか 、であるというのが著者の考えです。

論文の場合、どんな問題にどう取り組み、得られた結果をどう判断し主張するか、すべてはその研究を実施した著者本人が定めることです。たとえそれが指導教員にアドバイスを受けて定めたことであったとしても、論文の読み手から見ればどうでもよいことです。実態がどうあれ読み手は、書き手が取り組んだ問題がどのようなものか、詳細な説明を必要としていますから、それを丁寧に説明しなければなりません。

一方でレポートの場合、取り組むべき問題はレポートを課した教員側から示される場合がほとんどでしょう。どんなテーマについて、どのように論じるべきか、その指示内容は読み手すなわち教員と書き手とで共有されていることを前提として構いません。

そのため、レポートにおいては取り組んだ問題についての説明の一部を省くことができます。ただしあくまでも「一部」しか省いてはいけないことに注意してください。以下、この点について詳しく説明しましょう。

本書では全体を「導入・本論・展開」の三部構成にすることを2-2 で説明しています。このうちの「導入」は、本書で述べているように読み手にその文章を読む理由を与え、文章全体についての概要を伝える部分になります。ですからレポートの場合、文章を読む理由はもはや自明ですからバッサリと削ってよく、後は概要を示すだけで十分です。

次に本論において、「2-5 本論は『IMR』」で説明した“I”、すなわち取り組んだ問題については、教員から与えられた部分については、軽く触れる程度でよいでしょう。

しかし、もし書き手が、与えられた問題に対してその部分問題を独自に設定したのであれば、それについて詳しく説明することが必要です。書き手がどのような部分問題に取り組んだのか、読み手はまだ知らないからです。

これはレポート課題がどのようなものであったかにもよるのですが、例えば「○○について論じよ」といった、制約の弱い問題の場合、その○○のすべてについてレポートで論じきることはまずできません。たいてい、書き手が自身の創意工夫でもって部分問題を設定することになります。仮に「カレーライスについて論じよ」という課題であれば、自分はカレーライスの何について論じるのか、味なのか歴史なのか、はたまた付け合わせの漬物についてなのか、それをレポート冒頭で明示することが大事です。(ここまで制約の弱い問題がレポート課題として適切かという疑問はありますが、あくまでも例ということでご勘弁を)

「IMR」の他の部分についても同様です。“M”、つまり手段についての説明も、書き手と読み手との間ですでに共通の理解があるのであれば(実験レポートはその傾向が強い)、かなりの部分を省いて書くことになりますし、反対に書き手がどのような手段を講じたのかを読み手が予測できないような課題であれば、詳しく説明することが求められます。

字数制限が厳しいレポート課題の場合は、「4-5 論文概要は『起承解転結』」で説明したように、決まりきった型にのっとって書くのが便利です。同TOPIC では概要を500字で書くことを想定した文章量の配分例を示していますので、これに比例させて考えてみるとよいでしょう。例えば2000字書くことが要求されているのであれば、各パーツの文章量を4倍にして考えてみてください。ただし、「4-3 何度も書く」で説明したように、後で余計な文言を削ることを考慮に入れて、草稿段階では少し多めに書いておきましょう。

なお、以上の事を反対側から見れば、「論文は、レポートと比べてどう違うのか」についてもおのずと答がわかるかと思います。初めての論文を書く際には、参考にしてください。