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理工系論文の書き方

旧版4-4図解

理工系論文の書き方には「定石」があります。論文の執筆に慣れていない間は、この定石にのっとって書くとよいでしょう。型通りに書くのはつまらなく感じるかもしれませんが、独創性を発揮するのは研究内容のほうで十分です。文章そのものはオーソドックスに書いて、より広範な読者に読みやすい論文を届けることを心がけましょう。

本書で紹介している定石は、公式めいた書き方をするとこのようになります。

論文 = 序論・背景 + IMR + 議論・結論

以下各部分について簡単に紹介します。

序論

序論では、その論文がなにを背景としてどのような問題意識をもって実施された研究についてのものなのか、またどのような経過を辿ってどのような結論が得られたか、を示します。

そのためには、まず書き手と読み手とが共有している背景から出発して、書き手が持つ問題設定を読み手に理解してもらうための情報をおおまかに示しましょう。また、論文全体の構成を序論では示しましょう。この際、結論まで含めてはっきりと示すことが大事です。よく見かけるダメな序論に、最後を「本論文では〜について述べた後、結論をまとめる。」とぼかして書いているものがありますが、これはやめましょう。読み手になんの情報も与えられていません。

背景

序論では説明しきれない背景知識を読み手に提供する必要がある場合には、「背景」の章を設けます。序論に収めた背景情報は問題設定を説明するまでの最短経路に関わるものに絞りますが、背景の章ではもう少し詳しく説明することができます。

本論 (IMR)

理工系の文書において本論をどのように構成すべきかについては、「2-5 本論は『IMR』」で説明しています。おさらいすると、

  • 問題 (Issue): 解決しようと取り組んだ問題・課題
  • 手段 (Method): その問題を解決するため実施したこと
  • 結果 (Result): その手段を実行して得られた結果

の三つを読み手に伝えることが、本論の役割となります。

議論と結論

三部構成でいう「展開」に相当するこの章には、「議論」と「結論」の二つの章が含まれます。

「議論」の章では、本論中で簡単には下せなかった結果に対する判断を、仮想的な論者との議論を経て導くことを目指します。

「結論」の章では、大きく分けて論拠限界の二つを読み手にお土産として持って帰ってもらうべく記します。

あなたの研究成果を「使える論拠」として読み手に渡すためには、結論は前提条件と対で、つまり「〜が成り立つなら、〜である」というような形式で記述します。

どんな結論も、あらゆる状況に無制限で適用できる論拠になるということはありません。その論拠を利用する際に考慮されるべき、研究の限界や制約条件について開示しておくことが大事です。「限界」はそれを明らかにするために記します。

IMRaD

理工系論文の定石は、この書き方だけではありません。分野や投稿先によって、それぞれに推奨される定石は異なる場合があります。広く知られるものには、「IMRaD」(Introduction-Methods-Results-and-Discussion) があります。本書の「IMR」と似ていますが、IMRaD では主要な問題設定については序論 (Introduction) の中で説明することを推奨しています。想定される読み手が、論文で扱っている問題領域について十分な知識を持っていることが期待できる領域では、より簡潔に本論を記述できるこの書き方がふさわしいでしょう。

自分が書く文章がどのような読み手を対象にしているかをよく検討し、よりふさわしい定石を選びましょう。