本書で対象としているような、論文やレポート、報告書などの目的は、新しくわかった事実を多くの人に伝えることにあります。ですから、その「事実」を正確かつわかりやすく伝える文章をどうやって書くかが、本書の焦点の一つになっています。
しかし、文章の隅から隅まで、書き手の主観をまったく含めずに書けばよい、というわけではありません。文章には必ず主張があるはずで、その主張を書き手の意見や判断を交えずに書くことはできないからです。
文章を書く上で大事なのは、主観と客観とが明確に区別できるように書く、ということです。そのためには、客観的事実は事実として提示した上で、それらを論拠として書き手の主張を提示するのがよいでしょう。
反対にやってはいけないのは、書き手の意見を論拠なしに押しつけようとすることです。同じことをくどくどと繰り返したり、語調をことさらに強めて主張したりするような書き方は避けましょう。
また、「〜は〜であると考えられる」「〜は〜と判断可能である」といったように、書き手の主張を受動態で述べるのも禁物です。これらはいずれも、その判断の主体が誰なのかが曖昧になっています。先行する研究によって示された判断なのか、書き手が主観的に下した判断なのか、その判断の主体を明確に示さないと、読み手はどれが書き手の意見なのかを識別できません。「私は」「筆者は」あるいは「誰それは」というような、主格となる言葉を示して判断の主体を明らかにしましょう。