「1-6 事実に基づいて、正確に書く」で、客観と主観とがはっきりと区別できるように書くことの大事さを強調しました。特に理工系の文章を書く際には、本論からは主観的な意見をいったん引っ込めて書くべきです。しかしわかっていてもそれを実行に移すのは簡単ではありません。著者本人も、いつでもできているというわけではなく、自分の文章が印刷された後で悔やむこともたびたびです。
そこで、とりあえず即効性のある対処方法をお教えします。それは、書き上がった文章から形容詞を削るというものです。
という書き出しで、本書では形容詞や副詞など、他の語句を修飾する語句について注意を促しています。
これはなにも著者らが言っているだけのことではなく、昔から多くの書き手が同様の主張をしています。『トム・ソーヤーの冒険』のマーク・トウェインは、
形容詞は削れ。完全にとまでは言わないが、大半を削れ―残った形容詞には価値がある
と、教え子にあてた手紙で書いています。また、英語の文章指南書の古典『The Elements of Style』では、
(文章は)名詞と動詞で書け。形容詞や副詞ではなく
と指導しています。モダンホラーの王者、スティーブン・キングは、著書『書くことについて』で、副詞の乱用を攻撃しています。曰く
地獄への道は副詞で舗装されている
と。キングはさらに修飾語を乱用してしまう書き手の心理を、「自分の文章が明快でないため修飾語を入れないと読者に言いたいことが伝わらないのではという不安から来ているのだ」と、自身の経験を踏まえながら説明しています。
形容詞はもちろん文章を書く上で必要不可欠なものですが、うっかりすると読み手の主張の押しつけになってしまいかねません。判断の主体は書き手にあることを、意識しましょう。