文章は相手の注意を惹きつけ行動を促すことを目的として書かれるということを、「1-3 大事なことは早く書く」では説明しました。
しかし、だからといって文章に凝った仕掛けを施して読み手の注意を引こうとするのは感心しません。
関心を持って欲しいのは、文章そのものではなく、その主張であるはずです。ですから、最短距離で主張を理解してもらえるようためには、文章はあくまでも裏方に徹するべきです。余計な負担を読み手にかけてはいけません。
読み手に負荷をかけない文章を心がける上で覚えていただきたいのが「驚き最小原則」です。これは、人間工学や工業デザインのように、人間が使う道具の設計をする上で重要となる領域においてよく使われる言葉です。簡単に言うと、「利用者にとって、それを使う際にできるだけ驚きの少ない設計を心がけよう」という原則です。
本トピックではこの原則を文章に適用する考え方について解説しています。
メンタルモデルと「驚き最小原則」
人の驚きを最小にするためには、その人がどんな内容を「当たり前」だと思っているか、を知る事が大事です。
再び道具のデザインの例に戻ると、道具を使う人は、その道具がどのように振る舞うのかを予測しながら使っています。ドアが目の前にあれば、押すか引くかすればドアは開けられる、と人は予測するでしょう。
このように、その物がどのように振る舞うものか、人が心の中に抱いている仕組みのことを「メンタルモデル」と呼びます。
上の図を例にしてもう少し説明しましょう。ドアを開けようとする人は、そのドアの取っ手部分の作り方を見て、該当するメンタルモデルを呼び起こし、ドアがどちらに開くのかを予測して、手を伸ばします。予測通りにドアが開けば意識することなくそのドアを抜けていきますが、予測と違ってドアが開かないと、驚きをおぼえることになります。使いやすいドアを作りたいなら、人がそのドアの形状からどのようなメンタルモデルを形成するかを気にすることが大事です。
ライティングと「驚き最小原則」
さて、文章を書くときに「驚き最小原則」はどのように役立つでしょうか。
文章の場合、「使いやすさ」を「読みやすさ」に置き換えて考えることができます。すると読み手が抱く「メンタルモデル」は、文章を読む際の、こういう文書ならこんな流れで書いてあるだろう、この情報が書かれているなら次はこんな情報がきっと書いてあるだろう、といった先の展開に対する予測を生み出す経験則、と解釈できます。
したがって、ライティングにおける「驚き最小原則」とは、
「文章を読みやすくするためには、読み手が予測する展開と実際の文章とのギャップを最小に保つべきである」
と翻案できます。その具体的な実践としては、
- 文章を読み手のメンタルモデルに近付ける
- 読み手のメンタルモデルを読ませたい内容へ誘導する
となります。
本書ではこの原則に基づいた説明を各所でしています。特に、
を参照してみてください。