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厳しい読み手になろう

旧版3-1図解

文章を書き上げたら、それを厳しい目でチェックすることが必要です。困ったことに、自分の文章に対して、人はどうしても甘く見てしまう癖があります。そこには、自分にはわかりきった事が書かれているので、他人が読んだらわかりにくく思うだろう箇所を見付けるのは、簡単なことではありません。

小説家のスティーブン・キングは、原稿は6週間は寝かせよ、読み返したときに「他人が書いた原稿を読んでいるような気がする」くらいがいい、と主張しています(キング『書くことについて』)。これは長編小説についてのアドバイスですから、そのままレポートや論文にあてはめる必要はありませんが、せめて三日間くらいは寝かせるとよいでしょう。

さて、読み返すときにはどのようなことに気をつければよいでしょうか。本書ではいくつかそのポイントを説明していますが、中でも大事なのは、 「なぜ?」「本当に?」「それがどうした?」 を自分の文章に対してつきつけることです。

「なぜ?」 は、書き手がとった行動に対して、その理由を問うものです。他にも様々な選択肢が考えられる中で、どうしてその行動を選択したのか、その理由が説明されているかどうかを確認します。

「本当に?」 は、その記述の信頼性を問うものです。例えば「この結果は○○であると考えられる」といった記述があれば、即座に「本当に ?」とツッコミを入れるつもりで読みましょう。

「それがどうした?」 は、その記述をどう受け止めて欲しいのか、結論がなく宙ぶらりんになっていないかどうかを問うものです。自分では当たり前に思っていて、ごく少数の専門家には書かずとも通ずるようなことでも、より広い読者へ向けて文章を書くときにはそれを説明しなければなりません。また、当たり前のことを大袈裟に書いていないかどうかをチェックするときにも使います。

このうち「なぜ?」については、「3-2 『なぜ』の不足: 理由を補って主題の立ち位置を明確にする」でさらに詳しく扱っています。

なお、本書を脱稿した後に指摘を受けたのですが、この読み返しのポイントは、梅田悟司さんの「T字型思考法」とよく似ています。梅田さんは電通で広告に携わっておられる方で、商品の利点や魅力を言葉にして伝えるプロです。「T字型思考法」は言葉を生み出すための思考法として示されたものですが、共通するところは多いようです。