読み手と書き手との間にある知識ギャップを埋める上で、「なぜ」を提供するのが有用であるということを、「3-2 『なぜ』の不足」で説明しました。
しかしどうやって隠れた「なぜ」を発見すればいいのか、またどれくらいの量の「なぜ」を書けばいいのか。その具体的なやり方として、製造現場における問題分析の手法としてよく知られている「なぜなぜ分析」をヒントにした方法を本トピックで説明しています。ここではその概要を紹介しましょう。
まず、対象となる主張を選んだらそれをノートに書きつけ、またそこに含まれる情報のうち、読み手がまだ納得できないであろう事項に印をつけていきます。そうしたら、印のついた事項について、なぜそれを選択したのか、あるいはなぜそう判断したのか、その理由を次の行以降に書き出していきます。
そうしたら、新しく書き出した行を対象にして、再びその中から読み手がまだ納得できないであろう事項に印をつけていき、その説明をその下に書き足していく、という作業を繰り返していきましょう。
繰り返していくうちに、それ以上の著書からの説明が不要だろうと判断できるところに辿り着くはずです。例えばそれが常識の範疇であったり、先行研究で明らかにされている事項であれば、自分で説明を加える必要はありません。
分析を終了したら、ノートに書き出した事項を再点検し、整理します。それらの事項を、説明が読みやすくなるよう順番を入れ替えたり、配列を工夫したりしましょう。「2-4 『順列型』と『並列型』」も参考にしてください。
「なぜ」がうまく書けない時こそが勝負
ここまでの説明では、「なぜ」は意識しないと見つけられないものだけど見つけてしまえば説明はできる、という前提で話を進めてきました。
しかし、「なぜ」と聞かれても、うまく説明できないなあ、と思ってしまうこともあるでしょう。なんとなく分かってるつもりだけど言葉にできない、というときもありますし、「先生や上司に言われたから」以上の理由が自分の中にない、なんてときもあるでしょう。
そんなときこそが、実はとても大事なときです。自分が何を分かっていないのかを見つけ、なんとか説明できないかと踏ん張って考え抜くことが、人を大きく成長させます。懸命に参考文献を探したり、データをより詳細に分析したり、理由を知っているはずの人に喰いさがって話を聞くなど、「なぜ」を説明するための材料を探しましょう。
なお、明確な理由がないときには「理由がない」ということを説明することも大事です。そうしないと、読み手はそこに、表には出せないような理由が隠れているのはないか、という疑いを持ってしまいかねません。